超小型車の時代
政府が音頭を取って、
一人から二人乗りの『超小型車』の普及を目指す、というニュース。
現在の軽自動車は660ccで四人乗りなのだが、
これとは別に125ccで一人または二人乗りの車の規格を作る。
それをもとにメーカーに開発を促し
とりあえず自治体が観光地でレンタルするなどして
公道を走る実験を行い、制度を整えて一般の販売を目指す。
高齢者などの交通弱者解決の切り札にしたい、だそうだ。
読売はこのニュースにご執心で、経済面でも取り上げており、
『車離れの若者にも』といっている。
実をいうと、
軽自動車以下の『超小型車』というのはすでにある。
街中で、ゴルフ場のカートみたいな車をじいさんが運転して
てろてろと走っているのを見たことがないだろうか。
こんなの
ミニカーとかマイクロカーと呼ばれるカテゴリーの車で、
エンジンは50cc、あるいは同格の出力のモーター。
一人乗りで税金は安く、車庫証明もいらない。
一般に任意保険も安い。
規格としては1963年からあったが
石油ショック後に注目され、メーカーが乱立するブームとなった。
ところが1985年に道交法が改正されて
普通免許が必要になると、急速に人気が落ちる。
そもそも、所詮50ccなので、
3輪あるいは4輪のボディを乗せると極端に非力である。
現在も市販されている『タケオカ・ミリュー』は
カタログスペックで最高速度60km。最大登坂能力18度だ。
だから高速道路は走れないし、一般道を走るのも怖い。
スーパーの地下駐車場の車路などで
たまにとんでもない勾配の坂道があるが
下手をすれば登れない。
そのくせ道交法では『普通自動車』なので
歩道を走ってくるんじゃないっ。
かつては国内だけで10社以上のメーカーがあったらしいが
現在も製造・販売をしているのは1社だけだ。
そういうことを踏まえて改めて今回のニュースを眺めて欲しい。
何しろ読売は、27日の朝刊1面トップがこの記事だったのだ。
ここにある『意図』はなんだろう。
いろいろなものの『きっかけ』にしたいのだろう。
『高齢者向け』が大義名分だから、
安全技術の博覧会のようになる。
当たり屋が30人同時にダイブして来ようが、
てんかんになろうが、ぽっくり逝こうが絶対に自動で止まる。
万が一事故になっても運転手を押しつぶす勢いで
四方八方からエアバッグが飛び出し、
ぶつかった相手をも弾き飛ばすようなエアバッグが出てくる。
全方位にカメラがつき、スピードメーターも燃料計も、ナビも
全部ヘッドアップディスプレイになり、
あらゆる警告音は3段階で音量が調節ができて、
信号待ちで眠ったら、わさびガスが出てくるんだ。
ただし、全部オプションで、別料金で。
電気自動車も作られるだろう。
小型化が絶対条件だから、
航続距離の点では厳しいかも知れないが
有料電気ステーションの
社会的ストックに投資する為の
錦の御旗にさせられるような気がする。
ホイールインモーター自動車、なんていうのも
これで実用化するかも知れない。
車輪ごとにモーターをつけちまえ、というのがこれ。
構想としては戦前からあるが、市販車としては実現していない。
トランスミッションがいらなくなるから小型化と軽量化には最適。
車輪ごとに違う動きができるので4WDの概念が根底から変わる。
真横に動いたり、その場でくるくる回ったりできる。
2項道路(※1)ばかりの日本の都市でもこれで大丈夫だ。
セグウェイまで許可しようという狙いはなんだ?
しかし、『マイクロカーの失敗の原因』を
何一つ解決していない。
免許は必要に決まっているし、限定免許を作るにしても
視力検査も怪しいような年寄りが
教習所に通って免許を取りに行くだろうか?
教習所に行くだろうか?
そもそも若造が車を買うのはデートに使いたいからだ。
言い切っちゃうのもどうかと思うが、
バイトして無理をして中古車を買ったり、
中免を取ってタンデムできるバイクを買うのは、
隣に乗せたい人がいるから、あるいは
いたらいいなあ、ということだっ。
一人乗りの車なんか買うか?
ふええーん……
税金を安くするのはいいとしても、
保険会社が新規に年寄の保険を引き受けるだろうか?
仮に引き受けるとしても割高になるだろう。
若者の保険料というのは、もとから
若ければ若いほど高い。
田舎ならともかく、都心部で路上駐車前提の車を
販売するのが許される時代ではない。
軽自動車でさえ、都市部では
1990年に車庫証明(※2)が必要になった。
車庫証明が必要だとして、戸建てならともかく
アパートで年金暮らしの人が駐車場を借りるだろうか?
そして、駐車場を借りたところで雨の日にそこまでいって
ミニカーに乗り、スーパーの袋を抱えて帰ってくるだろうか?
交通弱者は都心にもいる。
橋下さんが大阪の市バスの赤字に怒っているが
あれを全廃、あるいは民営化して減便したら、
280万都市の真ん中で買い物に行けない年寄りが出てくることは
残念ながら確実なのである。
保険や駐車場については、
福祉のことだけ考えたら、『シェアリング』という方法もある。
しかし、独立採算のめどが立つはずはないので
行政の保護が必要だ。
許されるのか?
うがった見方をすれば、『交通弱者』云々は言い訳で
狙いは輸出ではなかろうか。
若者が減って、もう国内市場の伸び代はない。
だから老人をターゲットに、ということなのかも知れないが、
ただでさえ新車販売の4割が格安の軽自動車で
さらに安い車を作っても、国内市場にうまみはない。
いま、世界で一番たくさん車を買うのは中国人だ。
あの国の連中は見栄っ張りで
70年代まで『北京の朝の風物詩』といえば、
交差点を押し渡ってくる自転車の波だったくせに
いまや高級車もどきを買う。
しかし、まだ安い層はいくらでもいる。
トヨタやホンダがインド市場に投入している車は
80万以上するのだが、
インドで一番売れているスズキアルトは40万だ。
インド国産のタタ・ナノは30万だ。
でも、まだ高い。それ以下なら買う層は確実にいる。
それ以外ブラジルなど
中産層が猛然と車を買い始めている国もある。
社会資本が貧しい国だとガソリンエンジンを積むしかない。
しかし125ccならバイクのエンジンがそのまま積める。
三等国仕様なら空冷のままで十分だ。
救世主になるかも知れない。
おしゃれな電気自動車としてなら、
むしろ先進国で売れるような気がする。
実際、ヨーロッパでも小型車の共通規格化が
検討されている。
ヨーロッパでは、
都心部への車の流入を抑制している都市が多いが
そんな街でも許容されるかも知れない。
スポーツチャリンコが世界中でブームになったように、
おしゃれミニカーの市場は、きっとある。
何より、以前紹介したように
超小型車に関してはヨーロッパの方が先輩で
かっこいい車が山ほどあったのだ。
なんかいろいろと考えてしまう記事なのです。
注目していきましょう。
では、『今日の一枚。』
世界一小さな車、として有名なピール・P50という車。
一人乗り
50cc 4馬力
1962年から65年まで生産されました。
これはその当時の一台。
『大人一人と、買い物袋を。』がキャッチフレーズ。
徹底的な小型化と軽量化のために
いろんなものが省略されている。
写真を拡大するとわかるけど、
この車は右側にドアがありません。
イギリスは左側通行なので左にしかない。
ついでにバックギアもないので、
自力ではバックできません。
1963年の価格は199ポンド。
現在の値段で20万円弱
2010年から復刻版が作られているらしいので
広い土地を持っている人は買ってみたらどうでしょう。
(復刻版は、日本はもちろん、イギリスでも公道は走れません。
オリジナルは何故かイギリスではいまでも走れます。)
これも、以前紹介したけど
The Bruce Weiner Microcar Museum
ミニカーの時代ってのは、確実にあったわけです。
なにより、かっこいいなあ。
※1 道路法42条2項に定める道路。
『道路ってのは幅4mないと駄目なんだけど、そんなこといってると
日本中の長屋や町屋が違法建築になっちまうから、
道路と見なしてやるよ。』というありがたいお達し。
ビフォーアフターなんかで、ぼろぼろの骨組みでも補強して
使うのは、骨格をばらすと、改築あるいは新築ということになって
敷地を削って道路をひろげないといけない場合があるから。
※2 軽自動車の場合、保管場所届出といって
厳密に言うと車庫証明とは違う。
提出が必要な地域は都道府県によって定められているので
県警や公安委員会で確認しましょう。
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