大人になったら
子供の頃大嫌いだったのが
「大人になったら何になりたい?」
という質問だった。
運動は苦手だったので
『プロ野球の選手』という選択肢はなかった。
眼が悪いから
『パイロット』という選択肢もなかった。
かといって、『医者』や『弁護士』というと
子供らしくないと思って言えなかった。
こうしてみると
つくづく計算高い、嫌な子供ですね。
幼稚園くらいの頃からこの質問は嫌いだった。
「べつに」とか答えたら、沢尻エリカかと
『夢のない、つまらない子ね』という顔をされる。
女の子なら『お嫁さん』といえば、
「まあ、かわいらしい」とお世辞でも言ってもらえるのに。
なんとも悔しかった。
とにかく、ほかの子が「野球選手」とか「社長」とか
無邪気なことを言ってるのを
「なれるわけねーじゃん」と思うようないやな子供だったのだ。
だいたい、普通の子供って
『仕事をしている大人』というのをあまり知らないはずだ。
父親はサラリーマンだった。
インクを作る会社に行っていることは知っていたが
具体的に何をやっていたかはまったく知らない。
聞いても理解できなかっただろうが。
ただうちでは祖父が薬局をやっていたので
『働いているおじいちゃん』は日常的に知っていたが。
あと知っているのは『学校の先生』くらいだろう。
『母親』というのも『働いてる大人』なわけだが、
子供は母親を『職業人』としては見ていないだろう。
お使いで買い物に行っても眼にするおっちゃんの姿は
彼の仕事のほんの一部のはずだ。
子供なんて、家と学校を往復してるだけなんだから
世の中にあふれている『仕事の多様さ』なんて知らないのである。
したがって、「大人になったら何になりたい?」という質問には
TVに出てくる『プロスポーツ選手』とか『タレント』なんていう
向こう見ずな答えになるか、
私のように沈黙してしまうかどちらかのはずだ。
一度「サラリーマン」と答えたことがあった。
質問した相手は笑ってくれたが、ものすごく困った顔をしていた。
それが正直な気持ちだったのだ。
しかしそれ以降、そういう答えはしないようにしようと決めた。
そうするといよいよ答えがなくなる。
あるとき、先生にこの質問をされた。
「特にないです」と正直に言うと
「何かあるでしょう」といつになくしつこい。
生活指導の役に立てようとしていたのかもしれないが
引き下がってくれない。
5分くらい考えて、
平凡でなく、リアリティを失わない範囲で
飛躍した答えとして選んだのが
「政治家」という、
5分前にはまったく考えていなかったものだった。
先生は「Tくんにはちょうどいいかもね」といって
やれやれという顔をした。
ちなみに
その年は、ロッキード事件があった。
S先生
あのときの「T君にはちょうどいいかもね」という答え。
かなり傷ついたんですけど
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コメント
笑っちゃいけないが 思わず笑ってしまった。
政治家・・・
私は 無難に「保母」さん
と答えていたが 心の中では「女優」だった。
この女優という思いは20代前半まで持ち続けていたが 結局が16年間 OLという職業につき 今は何もしない専業主婦という職業に就いている・・・
ポチ
投稿: rinachan | 2008年1月17日 (木) 17時31分
rinachanさん、ありがとうございます。
「政治家」という答えは、
答えた自分でも不思議でした。
女優、いいじゃないですか。
でも人に言うのは照れるかも。
投稿: natsu | 2008年1月18日 (金) 23時23分