一級建築士製図試験物語(講義とは?)
資格予備校でなにをするかというと、
提出した課題に先生が
朱(あか)を入れてくれた図面を返してもらって講評を受け
当日に課題をもらって、3時間くらいかけて
プランのスケッチをして、
夕方にまた講評を受ける。
手を動かすのがメインだった。
しかし、もちろん講義もある。
その年の製図試験は、
一次試験が終わった後に
課題と所要図面だけ発表される。
ちなみに今年のテーマは
『貸事務所ビル』だそうだから、
これからの話も
ほんのほんのちょっとは役に立つかもしれない。
ことしから製図試験の内容が
だいぶ変わるらしいのだが
試験場で渡される課題には
まず敷地はこうであり、
こういった用途の建物を設計せよ、とある。
その建物にはこのような部屋を作り、
それぞれの面積はこの程度であり、
駐車場は何台確保せよなどと、
とかなりうるさく書いてある。
そして合計の床面積は
何㎡以下にせよ,ということが書いてある。
この床面積はめんどくさいが絶対に守らねばならない。
『・・・程度』と書かれている面積は多少上下してもいいが
『・・・以下』と書かれている面積は
越えた瞬間に不合格で
見向きもされませんぞ、
と禿げた先生に最初の講義で脅された。
私が受けた年の課題も事務所ビルだった。
(受験した年がわかってしまうが)
試験会場では答案用紙と下書き用の紙をくれる。
いきなり清書なんてできないからだが
禿の先生は、試験が始まったら
課題を読まないでいいから、
それにまず7m×7mのグリッドを書きなさい、という。
無茶な禿だと思うが、
ちゃんと理由がある、らしい。
じつは、8月に発表されるものは課題以外に
その年の試験で描くべき図面とその縮尺も発表される。
答案用紙の大きさはA2ときまってるから
レイアウトすると、要求される建物の規模は
ある程度、事前にわかってしまうのである。
情報分析とは、
かくも卑怯なものかと感心した。
こりゃ、個人で勉強する受験生はかなわん。
まず構造は鉄筋コンクリートで考えなさい、という。
課題から判断して大きなビルではないので
鉄骨造は考えなくてよろしい。
そしてRCでスパン7mというのは、今日びちょっと古臭いが、
非常識な数字ではなく、
そんな構造的妥当性なんかよりも
すばらしいことは7×7が49だということだ。という。
つまり、1グリッドが約50㎡になるので
ラフの段階での
面積配分が楽です。というのだ。
いかにもな受験テクニックで
おそらく古くから言い伝えられていたものなのだろうが
面積計算の便利でスパンを決めるなんてのは
個人的には初めて聞いたので、新鮮だった。
さらに禿の指示は徹底しており、
壁は柱芯に配置せよという。
これも面積計算を楽にするためで
実際は建物の内外に
柱型や梁型がでてきて、
もちろんそういうデザインの建物も現実にあるのだが
施工がめんどくさいし
かっこわるいのであまりやらない。
そして、繰り返すが大きなビルではないから
センターコアではなく
片側コアで考えなさい、という。
ただ、併設するホール(講堂)だけは
7mスパンに入らないから
事務所の入る高層棟と分けて
低層にしなさい、と。
(その年はそういう課題でした)
ほら、これで大きなプランはできた。
後はこのパターンをひたすら練習せよ、と
まるで、大リーグボール打倒のために
オズマを鍛える星一徹のような
ピンポイントな授業。
そして、講評では
『敷地に隣接して川やら公園やらが必ずあるから、
窓をそちらに向けて
設計要旨に
「環境に配慮して」なんて心にもないことが
書けるようにしなさい』
といった、それは正直だな、というアドバイスから
『非常用進入口の▼マークを忘れるな』という
くそ細かいことまで
指示してくれる。
さらに、
『時間がある限り座席やトイレブースなどを
描き込みなさい。図面に空白を作らないように』
という、それは採点に関係あるのかなあ
といったことまで、あ-めんどくせえ。
『合格したら忘れてくれていいです』と
最初の講義に言われたのが
まことにもっともだと思える
すばらしい授業。
科挙の試験勉強とは
このようなものだったのか?
これで何年も落ちたら
確かにちょっと太平天国を目指したくなるよなあ。
そうして、試験の日は静かに近づいてくるのであった。
次回予告
『去年の俺とは違うぜ』
乞うご期待。
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