日本ちゃぶ台史
昨日(6月25日)
『ちゃぶ台返し 世界大会』が行われたという
ニュース。→HP
岩手県のあるショッピングセンターで
『ちゃぶ台』といえば『ちゃぶ台返し』だ。
『ちゃぶ台返し』といえば
星一徹で『巨人の星』だ。
『三丁目の夕日』にも出てたっけ
サザエさん家が飯食ってんのも
ちゃぶ台だよなあ。
と、まあ
ちゃぶ台とは昭和の香り漂うノスタルジーの
象徴だ。
これから『ちゃぶ台』の話をします。
なかなか数奇な運命なんですよ、
こいつ。
われわれにとって『ちゃぶ台』は
昭和の象徴で『古臭いもの』なのだが、
誕生したのは意外に最近で明治半ば。
一般に普及したのは明治時代の終わりだった
そうして、『ちゃぶ台』が登場した時は
いま、我々が抱くようなセピア色のイメージ
ではなかった。
もっと華やかな、モダンな色合いだった。
『日本では食事に個々別々の膳を用い、
欧米では共同の食卓を用う。
今後の日本人もよろしく膳を捨てて食卓を用い
多数談笑のうちに食事するようにしたい。』
これは明治45年に読売新聞に載った投書。
『ちゃぶ台』以前の日本人は
『箱膳』というもので飯を食っていた。
今でも社員旅行なんかで日本旅館に泊まる時
宴会場で出てくる三宝みたいな、あれ。
ひとりひとりに食膳がある。
しかし あの方式で飯を食うのは大変で、
床柱の前に家長が坐り、後は序列に従って
ずらずらっと並ぶ。
座敷に入れない使用人なんかは
土間の横の板の間で飯を食う。
今でも、社員旅行なんてそんなものだが。
しかし、そういったものは古臭い、
といって登場したのがちゃぶ台。
家長が箸を取らねばみんな食べられない、
食事は黙ってするもんだ、なんておかしいと。
『家族団欒』ってえ奴をやろうじゃねえか。
文明開化だ、と。
かといって椅子にすわって食ったら
『欧米か』と。
床に直接 座って飯を食う 礼儀正しい日本人の
スタイルに合わせて登場したのが
『ちゃぶ台』だ。
封建的家族観を変える希望の星だったのだ。
そうして、どんなつまらないものでも
こうやって何かイデオロギーをかぶせると
長生きをしない。
実際には、ちゃぶ台は
『家父長制改善』という高らかな理想とは
まったく無関係に普及した。
なぜか?
ちゃぶ台だと場所の節約になるから。
『箱膳』スタイルで食うと
三世代が飯を食うのに座敷をぶち抜いて
20畳位かかる。
それがちゃぶ台だと3畳で5人同時に
飯が食える。
都市人口が増えていった時代に合わせて
労働者階層を中心に急速にちゃぶ台は
普及していった。
江戸時代の『長屋』だって狭かったが、
あの時代はガキは6つになったら
奉公に出してしまう。
世帯人員というのは案外少なかった。
明治になると、とりあえず尋常小学校を
終えるまでは、
ガキどもを家で食わせるようになる。
6畳+3畳に6人家族が住む、
そんな『ねじ式』の世界がやってくる。
そして良くも悪くも
それを可能にしたのが『ちゃぶ台』だった
しかし、この『ちゃぶ台全盛時代』に
日本中の長屋を調べて
『日本人はどんなに狭い家でも
食う場所と寝るところを分けようとしている』
ということに気がついたひとがいる 。
西山卯三という先生で、住宅改良の手法として
主張した『食寝分離』と呼ばれるその理論は、
戦後になって革命的な形で実現する。
『ダイニングキッチン』だ。
飯を食うところを寝室と分けよう。
飯を食うところには台所もつけよう。
アメリカがかっこいい時代だったから
ちゃんと椅子に座って
ダイニングテーブルで食べよう、と。
このダイニングキッチンが、
ステンレスキッチンとともに登場するや
戦後の『自由な』空気に触れた
奥さんたちのハートをわしづかみにした。
『団地妻』になるのが憧れの対象になる
時代になった。
そして椅子式のダイニングキッチンは
たちまちちゃぶ台を駆逐していく。
ちゃぶ台の三畳間と引き換えに登場した
ダイニングキッチン=DKは
21世紀になったいまでも、
住宅の基本単位だ。
『お前引越したんだって?』
『うん、でも狭いよ』
『どのくらい?』
『えーと、俺たちが寝る部屋と子どもの部屋
と、あと和室があるから3LDKかな。』
『すごいじゃん!』
ってなもんだ。
とにかく、時代の期待を背負って登場した
『ちゃぶ台』は
たった50年あまりで消えていった。
その50年が
日本旅館式の箱膳からダイニングキッチンまで
日本の住宅の歴史を切り取っている、
というあたりが面白いと思います。
でも、社会の変化を背負っているあたり
ちょっと重たいな。
我が家にもありません、ちゃぶ台。
ダイニングテーブルとは別に
ちゃぶ台を置くだけの
必要もなければ 場所もないからです。
うーん
『ちゃぶ台返し』世界大会くらいで
懐かしむのがちょうどいい。
では『今日の二枚』
うそつきめっ
うそつきっ
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