オウムの時代と、宗教勧誘と私
地下鉄サリン事件などに関与した、
オウム真理教の幹部の一人、遠藤誠一の死刑判決が確定。
これで、一連の『オウム裁判』は終結した、とされる。
『裁判終結』を迎えるにあたって、
いろんなマスコミが、かつての幹部の『談話』などを載せて
『なぜ私たちは、あの宗教に荷担したのか?』
といった特集をしている。
変な『宗教』を作ったのはともかく
『ハルマゲドン』が来ると、煽り立てたのが『オウム』。
その途中で、『こいつらおかしい』と思った
同志の信者や坂本弁護士などを殺した。
さらに、捜査の目をそらすべく、毒ガスまで作って、
松本の住宅街や、東京の地下鉄でそれをばらまいた。
殺人は論外だが、
ハルマゲドンだの、日本征服だの、
こいつらがいかにくだらない集団だったか、ということが
いまの人は、もう、わかりにくくなっているかも知れない。
そこで、麻原彰晃こと松本智津夫、作詞作曲の『尊師マーチ』。
歌唱も松本智津夫のデブである。
『ショーコーショーコーショコショコショーコー』
『歌も日本語も、恐るべきセンスのなさですね。』
『なんで、こんなのにだまされる奴がいたんだろう。』
『でも、幹部は、みんないい大学だったって。』
『じゃあ、その頃の話をしよう。。
中川にしても、上佑にしても、俺より歳下なんだけど
あの頃の雰囲気はわかる。』
『いまから約30年前ですな。』
『あの時分は、宗教の勧誘というのが
結構派手で、至極当たり前にあった』
『…ええ』
『ここから先、特定の宗教の名前や
それを連想させるような表現が出てくるが
それらが『オウム』と同一だとは思っていけない。』
『…はい?…』
『全く、ちっとも、全然、、さっぱり、そんなことは考えていない。
ここを勘違いされると、命に関わるから
きっぱりと言っておこう。』
『…そんなら言うなよ…』
『我慢できないの。
わかってるでしょ?そんなこと。』
『……』
『例えばケント・デリカットと、ケント・ギルバートは
モルモン教の宣教師だった』
デリカット
ギルバート
『モルモン教ってなんでしたっけ。』
『アメリカのユタ州に本拠を置くプロテスタントだ。』
『キリスト教の一派なんだ…』
『70年代から80年過ぎまで、あそこの教宣活動はすごかった。
紺のスーツに地味なネクタイ。
チャリンコに乗って、妙にうまい日本語で話しかけてくる、
そんなモルモン教の宣教師ってのがいくらでもいた。』
『二人のケントにしても、礼儀正しいし
金髪だし、日本語が話せて優しいし
あまつさえ、ギルバートに至ってはいい男です。』
『まあ、モルモン教の宣教師は、
「ナンパ厳禁」だったらしいけど。』
『あの人たち、
どこに行っちゃったんでしょうね…』
『昔、俺が下宿していた街はごく普通の住宅街だった。』
『日本中の郊外に、どこにでもあるような…』
『そうすると、真っ昼間に歩いているのは、おばさんか学生だ』
『ははあ…』
『街中に宗教の勧誘がいる。』
『街中にいる?』
『道に立ってんだよ。それで、学生と見ると近寄ってくる。』
『「あなたの幸せを祈らせて下さい。」なんて言って。』
『君の幸せが大丈夫か?というくらい幸薄そうな娘だ。
うすら白い顔で、キューティクルが逆巻いくくらい
美容に気を遣わない風情の娘が
いきなり手を合わせて眼を瞑る。』
『夜中だったら逃げますね。』
『真っ昼間だぜ?
それで一分くらい祈ってくれて…』
『そのまま帰してくれるはずはないですよね。』
『祈り終わると、
「いま、私たちのグループが、そこで集会をやっているんです。
是非、参加して下さいっ。」って。チラシを押しつける。』
『幸せはどこに行った、って感じですな。』
『さすがに、そんなところに行ったら
マインドコントロールされちゃうから…』
『まあ、無事には帰してくれませんわな…』
『祈ってくれるのが1分で、断るのが10分以上かかったな。』
『「幸せを祈らせて下さい」、にも流派があるのよ。』
『流派?』
『手で変な印を結ぶ奴。合掌してくれる奴。いろいろいた。
「幸せを祈る」だけじゃなくて
「あなたの血液をきれいにさせて下さい」なんてのもいた。』
『あの時分は、いろんな宗教がありました。』
『一番多かったのが、「手かざし」だ。』
『ははあ。』
『道を歩いていると、不意に出てきて、
「幸せを祈らせて下さい。」と来る。
不意を突かれているから答えられないでいると、もう
俺の額に手をかざして、眼を瞑って祈り出す。』
『ある意味、ひったくりのような…』
『その手をつかんで俺のデリケートゾーンに
導いてやろうかと思ったが、真っ昼間だ。』
『それでまた、勧誘、と。』
『本当に、20mおきくらいにいるんだよ。
流派が違うから、同じグループじゃないと思うんだが…』
『全員集めて、
一気に祈ってもらったらよかったのに…』
『幸せになれたかな…』
『面白い、とは思うんですけどね。』
『でも路上なら、無視することも出来る。』
『ええ…』
『…勧誘されても逃げることも出来る。』
『まあ…』
『これが店の中だと、どうにもならん。』
『ああ…』
『以前、喫茶店には怖くて一人では入れない。と
書いたことがあるが嘘じゃない。
待ち合わせとかで、一人で喫茶店に入ると、
いつのまにか隣にひとがいることがある。』
『うわあ…』
『男なら左翼のオルグで、女なら宗教だ。
逃げ場がないから、あれは辛いぞ。』
『いまの人は知らないんでしょうねえ…』
『一番驚いたのは、定食屋のおばちゃんにやられたことだ。』
『はい?』
『講義が終わって、3時くらいの
ちょっと変な時間にメシを食いに行ったのよ。』
『定食屋に?』
『そしたら、ほかに客がいなくて、でもまあ気にもしないで、
漫画読みながら、とんかつ定食食ってたら
そこのおばちゃんが声をかけてきた。』
『……』
『「あなた、○大の学生さん?」て言うから、
「はあ、」って答えると、
「今からちょっと実験をやるから見てってよ」って言う。』
『実験?』
『小皿を二つ出して、そこに塩を少し盛り、
「同じ塩よ。確かめてみて。」という。』
『はい?』
『なんか気圧されちゃってね。で、まあ舐めてみたら塩だ。
「はあ、同じっすね。」っていうと、うれしそうに
「そうでしょ。」という。』
『そりゃ、塩でしょう。』
『そうしたら、
「今から30秒、こっちの皿にだけ、あたしが手をかざす。
そうすると味が変わる」って言うんだ。』
『うわあ…』
『あぶないひとだなあ、とは思ったけど…』
『…逃げりゃいいじゃないですか。』
『まだ、とんかつも半分残ってるし、
勘定も済ませていないからな。』
『…うーん。』
『おばちゃんは
「あたしも信じてなかったの。でも、眼の前でやってもらったら
ほんとに味が変わってねえ。驚いちゃって…
あたしもやってみたくて先生にお願いして修行して、
最近やっと出来るようになったの。」
といろいろしゃべっていたかと思うと、
いきなり黙って念を送り始めた。』
『……』
『30秒ほどやったあとで、彼女はうっすら上気した顔を上げて
聖母のような笑みを浮かべて、
「さあ、比べてみて。」、といった。』
『味見したんですか?』
『だから、なんか圧倒されちゃってな。
でも、味見したけど、塩だ。
「あ、同じっすね。」といった。』
『ちょっとは、お愛想を言えばいいのに…』
『俺は正直者だからな。
でも、そうしたらおばちゃんは、
『嘘っ。』といって、皿を奪った。』
『自信があったんだ…』
『それで、2,3度味を比べると、放心したようにつぶやいた。
「同じだわ…」と。』
『…話、作ってないすか?』
『いや、ほんと。店の名前は忘れたが、
店の場所やおばちゃんの顔は、くっきりと覚えている。』
『客が一人の時は、いつもやってたんですかね。』
『俺も含めて、我が同窓の学生が
あの間抜けなおばちゃんに折伏されたとは思えないんだが。』
『…なにが狙いだったんでしょう…』
『だますつもりなら、手かざしする方の皿に
ちょっと味の素でも混ぜておけばいい。
それをしなかった上に、実験の失敗を驚いていたから
彼女は、本気で
ハンドパワーを信じていたわけだ。』
『ああ、ねえ…』
『俺は折伏されなかったが、しかし彼女をそこまで
マインドコントロールした宗教家がいたんだろうな…』
『そっちのほうが怖いっす。』
『定食屋のおばちゃんまで、だますとなると…』
『ある程度の確率で、だまされる奴がいるのか…』
『それだけ勧誘がいたんなら、
時代のパワーだったんじゃないでしょうか…』
『時代とか、世相とかのせいにしてしまうのは
結論を薄っぺらにしてしまって、つまらないんだけど、
異常な時代では、あったよな。』
では、『今日の一枚。』
きてます。
まあ、これは
本人が『マジック』って言ってるからね。
あのヒゲデブが、
いかに嘘つきであったか、という歌。
オウム教団に、疑いがかかり、自身にも捜査が及び
信者に動揺が広がった時に作った歌。
『わーたーしーはーやってない―、けーっぱくーだー』
作詞作曲歌唱:麻原こと、デブ。
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