左利きの急須とユニバーサルデザイン
『世の中にはこんな品物がある』
と感心した話。
『左利き用の急須』です。
違和感を感じないだろうか?
たぶん皆さんのご家庭にあるのは
こういうタイプ。
逆なんですよ。
急須は右利き用だ。
『左利きグッズ』というのがある、というのは
だいぶ前に聞いたことがあるが
特に必要がないから興味はなかった。
とある店で、見かけて手に取ってみたのですよ
なんとなく、写真を撮るのを憚るような
小さな店だったので、
上の写真は今日見た奴ではないが…
実物を見たのは初めてだった。
手にとってみるとよくわかる。
右利きの人間が自分の湯呑みにお茶を注ぐ時は
急須を湯呑みの手前に抱いて、
外に注ぐような感じになる。
『右利き用急須』をで左手で使うと
湯呑みの外から急須を廻して、
手前にお湯を注ぐ。
違う利き手で使うと、不自然なのだ。
なるほどね。
ちょっと、蒙を衝かれた感じがした。
そういう品物って、多い。
カッターでも鋏でも、
右手で使うように出来ている。
言葉では説明しにくいので
是非とも、手に取ってみて欲しい。
右利きの人が、左で使うと
『刃をだすのがこんなに不便か。』と、
気がつくだろうし、
左利きの人が右で使うと、
『ずるい』と思うかも知れない。
さらにそういう眼で見ると、
世の中は右利きのために出来ている。
すべてのリモコンの電源スイッチが
右上にあるのも、
右にひねると蛇口から水が出るのも、
障子や襖が、『右手前』なのも
すべて、世の中が
右利きのために作られているからだ。
文字だってそう。
漢字を作った人間は右利きだ。
漢字を右手で書く限り、
すべての線は『引いて描く』。
これが左利きだと『押して描く』。
鉛筆や、万年筆の国ではさほど重要に思わない
だろうが、筆で書くなら左利きは不利。
この話はすでに有名で、
今更こんなことで驚くのは
とんだ時代遅れなのかも知れないが…
アラビア語は右から書くらしいが
アラブの人は左利きが多いのだろうか?
昔は『左利き』は『ギッチョ』と呼ばれて、
矯正されられた。
『軍隊に入るといじめられる』というのだ。
小銃は右手で操作する事を前提に
作られている。
排莢して次弾を装填するための
アクションボルトを始めすべてが右にあるので
ギッチョは操作しにくい。
左利きのための武器なんてないし、
敏捷に反応しないと当のギッチョだけじゃなく
部隊全員の命に関わるので、
ぶん殴ってでも矯正させる。
と、軍隊に行ったことのない連中は信じていた
あんまり、いじめられたものだから、
いまは『ギッチョ』というと、
差別用語になるのだそうだ。
でも、この日記では使う。
差別意識はないから。
しかし、それ故に赤ちゃんが左手でおもちゃを
つかむと『あら、この子ギッチョかしら』と、
左手を叩いたり辛子を塗ったりして矯正した。
兵隊で困るなら、男だけか?というと、
女の子も矯正させられた。
『ギッチョは遺伝する』と思われていたのだ。
遺伝すると信じておいて、
それを、教育で矯正するのは
矛盾していると思うが
そこは、ほら、戦前だから。
そして、母親がギッチョだと
『こどもが真似をする。』とも思われていた。
左利きの女性は、
お見合いで嫌われたそうである。
お見合いも、軍隊も、私は体験していないが
『左利きのこどもを矯正する』というのは
我々の世代でも、共通の体験だった。
しかし最近は、
利き手の矯正というのは流行らないそうだ。
こどもの個性を伸ばす、
こどもにストレスを与えたくない、なんていう
発言小町的な、薄気味悪い理由らしい。
しかし、急須を始め、すべて、地上の物産が、
左利きを差別している。
自販機のコイン投入口が右側にあるのも
駅の改札のICカードセンサーが右側にあるのも
ネクタイの結び方も、ベルトのバックルの形も
みんな右利きを前提に作られている。
世界は右利きで出来ている。
それが出来ない、というのなら
新聞に投書して、たばこ共々禁止してみろ。
右も左も歴史あってのことだ。
こればっかりは『共存』できることではない。
しかし、他者を排除することでもない。
どうやって『両立』したらいいんだろう。
左利き急須、というのを見て
『へえ』と、思った次第です。
ユニバーサルデザイン、というのは
多数派には発想できない。
と思い知ったのでした。
では『今日のユニバーサルデザイン』
視覚障碍者用の
ルービックキューブ。
目が不自由な人にどうぞ、
という商品。
一瞬『おっ』と思うのだが、
こんな嫌味な品物はない。
気がつかければ、
あなたには『健常者の驕り』がある。
『盲に色は要るまい』ということで、
真っ白なのだが
ふざけるな、馬鹿。
点字があるのは構わない
『視覚障害者』にはいろんな段階がある。
しかし、少しでも光を感じられる人の
色彩に対する欲求は真剣だ。
無味白色のこのキューブは、
そういった希望を奪う。
さらに、盲が頑張ってこんなキューブを
完成させても、健常者にはわからない。
さらに、いかに早くできても色がないから
『それじゃあ、俺にやらせてみろ』と
競うことも出来ない。
ゲームであればこそ、誰かと競うこと、
自慢することが大事だと思う。
この、ホワイトキューブではそれが出来ない
視覚障碍者を思いやっているようで、
結局は『上から目線』だ。
ユニバーサルデザインの難しさ、って
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コメント
right :正しい 右 の意味がありますが、右利き → 多数派 → 正しい の意味になったのだと習った記憶があります。
正しい なんて 結局 多い ってことだけっだったってことですよね。
投稿: ぷく | 2011年11月18日 (金) 20時24分
ぷくさん ありがとうございます。
right=多数派で
『正義』という説は
知りませんでした。
正しいってのは、一体
なんなんでしょうね。
少なくとも、
『声が大きい奴』が
偉そうな顔をします。
こまったもんだ
投稿: natsu | 2011年11月20日 (日) 11時23分
この商品(Rubik's ミラーブロックス)ならユニバーサルデザインと言えそう。
http://rubikcube.jp/products/rubiks/rubiks04.html
投稿: きむら しんいち | 2013年5月 3日 (金) 11時05分
きむら しんいちさんありがとうございます
色はないけど、
明らかに形状が違うってのがいいですね。
5.6回回した時にどんな形になるのか?
しかし、色に頼る健常者も
理解できて競える、という意味では
素晴らしいです。
本当のことを言えば、視覚障碍者のひとの
本音なんて和案ないんですけどね。
あからさまな思いやり、は嫌みだし
お互いが、おお、っていう
粋な解結はないものか?
この商品は、ちょっとそんな気がします。
ありがとうございます。
投稿: natsu | 2013年5月 4日 (土) 00時58分