ハチロクはヨタハチでもなく、2000GTでもない。
トヨタが新しいスポーツカー
『86(ハチロク)』を公開した。
『ハチロク』の走行シーン。
ぐりぐりとドリフトするのは
FRだから、ということのアピールらしい。
FRというのは、
F(フロントエンジン)・R(リアドライブ)
という意味で『後輪駆動』ということ。
加速するときに、背中からばうんっと張りが
出るのでスポーツカーはFRだよね、という
時代があった。
このドリフト走行なんかは、最たるもの。
ドライブシャフトが床板を押し上げるので
後席中央に座らされる新人サラリーマンは
泣いてしまうのだが
大型車はFR、スポーツカーもFRという時代が
あった。
しかし、1970年代になると、
小型車はFFは主流になっていく。
そのなかで今回の86の元のモデル、
スプリンター・トレノはFRだった。
もちろん「ハチロク」に限らず、公道で
こんな風にドリフト走行するのは違法だ
そうはいっても、「スポーツカー」。
ということでトヨタの社長もこのありさまだ。
レーシングスーツを着た、豊田章男社長。
止める奴はいなかったのか?
この人はライセンスをとったレースドライバー
なので、コスプレではないのだが、
まあ、社長の道楽ではある。
ちなみに、この人だ。
リコ-ル問題で
アメリカ議会で頭を下げる
豊田社長。
お辞儀の角度が足りない、という批判を浴びた。
さて、ここで問題にしたいのは
なぜ「ハチロク」なのか?ということ。
トヨタにはたくさんのスポーツカーがある。
そのなかで、なぜ?という素朴な疑問。
「ハチロク」というのは1983年に発売された
「スプリンター・トレノ」の型式名。
なぜ、それを選んだ?
正直、去年だかおととしだかに
「トヨタがライトウェイト・スポーツカーを
出すらしい。」という話を読んだとき、
この車だと思ったのだ。
この車のことは、後で説明することにして
スポーツカーにもグレード、という名の
ヒエラルキーがある。
初代ハチロクは1600cc
今回のハチロクは2000cc。
ヨタハチは790cc、
TOYOTA 2000GTは、文字どおり2000ccだ。
今の自動車は、エコカーだなんだということで
トヨタで一番売れている車は、
ハイブリッドカーのプリウス。
ところが、ほかのメーカーもエコカーを
出していて低燃費、リッター30kmが
アドバンテージではなくなってきた。
それならば、とトヨタはリッター60kmの
プラグイン・ハイブリッド・(PHV)
プリウスを発売する。
その一方での、
この古典的な『スポーツカー』だ。
トヨタって、体力あるなあと思うわけだが
この会社は、自動車をどこに着地させたいのか
自分でもわからなくなってるんだろうな、
とも思う。
なにしろ今の若い奴は、新車はおろか
免許も取らない。
しかも、圧倒的な「少子化社会」の中で
そもそも、若い衆がいやしねえ。
だから、トヨタは「ドラえもん」まで動員して
というキャンペーンをやったわけだが
その受け皿の一つが、この「ハチロク」。
さて、売れるだろうか?
まず「ハチロク」という名前が半可通で嫌だ。
車の名前を「型式名」で言うのが
いかにも「通」であるかのように報じる、
馬鹿マスコミがあるのだが
お前ら、車になんか乗らなかったろ?
86トレノはリアルタイムに知っているので
朝日ごときの若造を論破する自信はいくらでもある。
かかってこい。
「鉄道マニア」は、多少世間の認知を得たおかげで
さまざまな流派があるのだ、ということが
知られるようになった。
ところが「自動車マニア」にも流派がある。
「ハチロク」なんていうふうに
「型式名」で呼ぶのは「峠族」や「改造派」と
呼ばれる、ごく一派だ。
Wikipediaに「漫画の影響」ということが
書いてあって、「頭文字D」という漫画が
のっている。
実は私も、読んでいたのだが
漫画なんかで車を選ぶか、馬鹿。
しかしファン層の偏りを切り取っていたような
気はする。
実際トレノという車は『チープな走り屋の車』
というイメージがある。
だけどそんなのに媚を売ってどうする。
そもそも、「ハチロク」というのは
もとをただせば所詮は「カローラ」だ。
当時のトヨタのスポーツカーの、最廉価版。
それを、当時流行の3ドアハッチバックにして
「ライトウェイト・スポーツ」を作ろうとした
のが「ハチロク」。
発売時の1983年というのはバブルに向けて
日本中が『雷雲』を目指して、「坂の上」を
目指して駆け上がっていた。
若造にそこそこ受けた。
そして、そこそこ速かった。
私が、箕面の山道を
グロス85馬力のホンダ・スーパーシビックで
駆け抜けていくとそこをあっさりぬかしていく
のがこいつだった。
にええええ、にくらしい。
みんなCVCCが悪いんや。
この「初代86」が登場した当時、
トヨタにはもっと高級なスポーツカーがあった。
セリカ・XXという車。
トレノが1600ccだったのに対して、
セリカは2800cc。
差別化とマーケティングはトヨタのお家芸で、
XXはそののちスープラというバブル車になって
泡と共に昇華して消える。
スープラ type1986
スープラ、という名前は輸出仕様車に使われて
いたのだが1986年、日本市場に登場する時
『TOYOTA 3000GT』という新聞広告を打った
これは、多少自動車に興味がある人には
すぐにわかる。
この車へのオマージュだ。
それぞれの車についてたくさん話したいのだが、
例によって話が拡散してきたので元に戻そう。
初代トレノは、カローラベースの手軽な車。
私も乗ったことがある。
この型式ではないが、
スプリンターのオーナーだったこともあるので
トヨタの人に怒られる筋合いはない。
さほど速くはなかった。
正直、ミラターボに乗ったときのほうが、
その加速に驚いた。
しかも、日本がバブルの坂を駆け上がると、
バブル女どもは、『えー、トレノー?』なんて
言うようになる。
もちろん、マーケティングのトヨタは
そんなことわかっていて、上級モデルとして、
スープラやソアラを御用意するのだが
思い上がった馬鹿バブル女は
『えー?国産なんていやー。』
『BMも、3シリーズじゃ嫌よねー。』
『190Eなんてコベンツじゃーん。』
『かろうじてサーブかなあー。』
とか憎体なこと言いやがってっ。
と、友達の山田君が言ってました。
しかし、そうなるとトレノに乗るのは
本当に走り屋を気取る峠族と、
改造族だけになる。
彼等が愛用したコードネームが型番の86だ
今回それを商品名にするあたり、
トヨタの考えがよくわからない。
2000GTみたいな超高級車は論外だが、
スープラの様な車でさえ、受けいれられる
世の中じゃない。
『エントリー・カー』としては、
ライトウェイトスポーツがいい。
というところまではわからんでもないんだが
『走り屋』っぽい車を与えたら
喜ぶんじゃないか?というのは、
消費者舐めてるよな?
ヨタハチで、いいのに。
あれは名車だぜ?
1960年代。戦後の安定を得た西側諸国では
一斉にスポーツカーブームがおこる。
ところが、ぜいたくな車に乗れたのは
アメリカ人だけで貧乏なイギリス人は、
ミニクーパーなんてのを造った。
軽自動車よりも小さい車体に
1000cc55馬力のエンジンを載せたこの車は
『羊の皮をかぶった狼』というニックネームで
世界中から愛された。
ミニクーパーS
日本でも、ホンダがミニスポーツカーを造る。
S500から始まってS800に結実する
『Sシリーズ』で有名なのがS600。
606cc、57馬力をたたき出すこの車は
浮谷東次郎が乗って
クラブマンレースでミニクーパーを破ったりした。
乗り遅れたトヨタが投入したのが
トヨタスポーツ800、通称『ヨタハチ』
ヨタハチ
ブームに乗り遅れただけあって
DOHCエンジンから作ったホンダと違って
エンジンも車台も大衆車パブリカの使いまわし。
リアサスペンションに至っては板ばねである。
800ccなのに47馬力しかなかった。
非力なエンジンでホンダに勝つ方法は軽量化。
徹底的に軽くしてまるんとした空力スタイルで
この車は、意外に速かったらしい。
伝聞形になっているのは私が乗ったことが
ないから。エスロクは数が出ているが、
ヨタハチを中古車で見ることはまずなかった。
もっとも80年代初めは、エスロクの中古車も
高級品で速いも遅いも体感できませんよ。
徳大寺有恒じゃないんだから。
ついでに余談だが、
117クーペに乗ったこともある。
いすゞは今は乗用車を売っていないが
昔はジェミニとか、面白い車を売っていた。
ただ、売る気はほとんどなかったらしく
メーカー直系の乗用車販売店は大阪北部で
たった2店。
10年くらい時間が止まっっているような
素寒貧としたフロアで、
営業カウンターには誰もおらず、
何度か声をかけて出てきたのは意外にも
若いおねいさんだった。
苦労して探し当てた117クーペの試乗には、
そのおねいさんが同乗してきた。
暇だったのか?
怪しげな奴、と思われたのか?
誘われていたのか?
ほら、余談だ。
とにかくトヨタは既成車に新しい皮をかぶせて
スポーツカーとして『ヨタハチ』を造った。
『羊の毛を刈った羊』だ。
めー
でも、速かった。
スバルからエンジンをもらうのもいいけど、
中途半端なマニア用語の『86』なんて
いうのを商品名にしても、おそらく、
のびたは買わない。
『ドラえもん。ドリフトってどうやるの?』
とか、言い出しそうな気がする。
ドラえもんが、ヒールもトゥもないのに
華麗にシフトを操りそうなのも怖い。
ヨタハチのほうがよかったと思うよ?
廉価版の車を改造してこそ、
トヨタじゃないのかなあ?
『トヨタのスポーツカー復活』と聞いて
期待したのに、それが2000GTでもなく
ヨタハチでもなく同時代の私でさえ
わかりかねた『ハチロク』だった
というあたりに、
『トヨタの迷い』を感じるのです。
では、『今日のいすゞ。』
1980年代の、いすゞジェミニのCM集。
これ、いっさい特撮がないそうです。
もちろんCGもない。
車より、ドライバーがすごいわ。
おまけ
TOYOTAの新作CMはこちら。
免許取るところまで行くのさえ大変。
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コメント
大変興味深く読ませて頂きました
私は漠然と
「スポーツカーって、かっこいいなあ~」
と思うレベルですが
記事を読んで
「乗ってみたい!」
になりました
単純です・・・
natsuさんの気持ち、いやいや
お友達の山田さんの気持ち
これはよく分かります(笑)
投稿: れい | 2012年2月 6日 (月) 07時49分
natsuさん
お忙しいだけだと思いたいですが
体調大丈夫でしょうか?
徹夜もあったということで
勝手に心配しています
お元気でいらっしゃることを信じています
投稿: れい | 2012年2月 8日 (水) 07時20分
れいさん ありがとうございます。
失礼なことを申し上げたようで
弁解の余地見ありません。
申し訳ありません。
コメントは消去してください。
投稿: natsu | 2012年2月 9日 (木) 09時15分
いつもお疲れさまです!
ところでルマンズもそろそろですし、
この動画を見てみませんか?
面白いですよ!
youtube.com/watch?v=vzDJrZNSwNs
投稿: サルヴァトーレ | 2012年6月13日 (水) 08時59分
余計なこととは思いますが
ハチロクを「トレノ」と言い切るのはいかがなものかと。
当時を知るものとしては
レビンの方が圧倒的に台数多いと思いますよ。
ついでに言うなら
街の遊撃手の並走ターンシーンは
クルマを連結させて撮っています。
どうにも気になったので
失礼致しました。
投稿: とおりすがり | 2015年1月26日 (月) 17時12分