日本で今年一番長い日
『さあっ。今日7月1日。
日本期待の衛星『毎度毎度ごめんやっしゃー』号を積んだ
H22Cロケットが打ち上げられます。』
『日本の民間衛星打ち上げも商業ベースに乗る、と。』
『大いに期待したいですね、』
『さあっ。この鬼ヶ島宇宙センターは晴天
絶好の打ち上げ日和です。』
『今日の7月1日は、日本民間衛星の自立の日、として
長く記念されるでしょう。』
『いよいよカウントダウンです。』
『15,14,13,12,11,メインエンジン・イグニッション。』
『おおう…』
『10,9,8,7,6,…』
『いよいよ「日の丸宇宙船」が商業ベースにっ。』
『5,4,3,…』
『おおう、いよいよだ。』
『2,1,もう一度1、そしてゼロぉーー』
『え?え?』
ごおおおおおぉぉぉぉぉ。
『……』
『……』
『飛びましたね。』
『飛びましたよ。』
『なんで1秒遅れたんだい?』
『どういうことです?』
『さっきの秒読み、おかしかっただろうっ。』
『今年の7月1日の午前8時59分と
『だからなによ。』
『ねえ…』
『でもせっかくだからどっかの国で
そういう冗談をやらないかな。』
『うーん…』
『あ、ばあちゃん?俺だよー。俺。』
『はて、どちらさんでしたかな?』
『やだなあ。可愛い孫の声も忘れたのかよー。俺だって。』
『ああ、その声は、茨城の…』
『そうだよー、茨城のー…俺だってばー。』
『茨城の美沙子のところの3男の
カルロス・サントロメオ・ジュアン・トシキだね?』
『そうそう、オメガっと俺だよー。』
『いい加減からかわれてることに気がついても良さそうだけど…
一体どうしたんだい?ジョバンニ。』
『あのさあ、ちょっと交通事故しちゃってさあ。
ヤバ筋の人みたいですぐに金がいるってー。』
『あらあら、あんたには怪我はないんだね?』
『うん。俺は平気なんだけどー。
その人がとりあえず入院費用に200万居るってー。』
『病院は保険に入ってるわよ。
身柄ごと消えちゃうんならともかく
足腰立たないくらいにしてやったんでしょ?』
『あ、うん。骨折。』
『なら大丈夫よう。
何をビビってるの?』
『とにかくお金がいるんだ。すぐに送金してくれないか?』
『ふーん?銀行なんか行かないわよ?』
『そんなんじゃないんだ。
クレジットカードがあるだろう、それでもって
今日、7月1日のの午前9時丁度に今から言う口座に
キャッシング振込をしてくれ。』
『そうやって、時刻を指定することで
そのお金をすぐによそに転送して
ロンダリングしてしまおう、
ということね?』
『なに言ってんだよう。オレだよ。オレオレ。
カルロス・トシキを信じてくれよ
それに、トシキで海部を思い出すのは、
相当に歳がばれるよ?』
『それでどうしたらいいんだい?』
『2012年7月1日午前9時丁度に
さっきの口座に振り込んでくれ。
信じてくれよ、9時まであと一分だ。』
『わかったよ、クレジット番号を打ち込んだよ。
あとはタイミングに合わせて
「Enter」のキーを押したらいいんだね?』
『そうさ、頼むぜバーちゃん。このミッションに失敗したら
俺の家も嫁も車もみんな…』
『はいはい、もういつでも押せるよ。』
『よしっ。10.9.8.7.6.5…』
『あああっと…』
『……』
『……』
「…どうだい?うまくいったかい?』
『ばあちゃん。データが流れないよ。
7月1日午前9時にきっかり合わせて設定してあったのに。』
『ほほほ。それはね…』
『な、なんだよ。』
『2012年7月1日は
日本で「今年一番長い日」なんだよっ』
『く、くそっ.』
『まともな銀行とか金融システムは
今回のことを織り込んでいるはずなんだけどねえ…』
『おいっ。この請求書はなんだっ。』
『はい?…』
『2012年7月1日のスパコン「京」の賃借料だ。
なんで6月より100万円も高いんだっ。』
『それは2017年7月1日は1秒長いんです。
1秒1京回計算できるんだから仕方ないですよ。』
『高すぎる。
どうして2万じゃダメなんですか?』
あたしもだめだと思うわよ?
『ご注文の品です。』
『おおう、この艶やかなえんじ色。』
『さすがは生レ…』
『しっ。』
『お客様。呼び名にご注意ください。
こちらは7月1日からは、ご禁制の品です。』
『うーん、じゃあ…生肝臓?』
『しかし、この2012年7月1日の時点で
フレッシュな生…肝臓を食べてるのはわれわれだけだぜ?』
『…違法じゃないのかい?』
『はははっ。今日の午前8時59分と9時の間には
午前8時59分60秒、という本来あり得ない時刻がある。』
『…うん…』
『この、生…肝臓の注文が通ったのは
まさにその時間だっ。』
『…うん…』
『その瞬間は7月1日じゃないんだよっ』
『そうかなあ…』
『そうともさ…』
『……』
『うっ。』
『どうした?』
『おなかが痛い…』
『わしは超地球衛星1965。
同世代の衛星が、次々と地球に落下していく中で
わしは、ツオルトップスキー博士の緻密な計算によって
地球周回軌道に浮かんできた。
しかしもはやバッテリーもほとんど尽きた。
カメラもレーダーも効かない。
そもそも、50年以上の間に数十回繰り返された
閏秒のおかげでいまでは、30秒くらい遅れている。
本来あるべき位置とはまるっきり違っている。
俺の位置は、アマチュア天文家には把握できまい。
おや?指令がきたようだ。
ずいぶん久しぶりのことだ。
どれどれ?
『貴船の最期の任務を通達する。
このままアメリカに突っ込め。』だと?
ずいぶん乱暴な指令だな。
いくら何でもNORADは僕の位置を把握しているだろう。
この突入は無理じゃないか?
『日本時間だと2012年7月1日
午前8時59分から9時までの間が1秒長い。
そこを狙って突入せよって。
そこに隙はあるのかなあ…
まあ、いいか。……』
では、『今日の「日本で一番長い日」。』
昭和42年公開の映画。
『日本で一番長い日』の予告編。
【予告篇】日本の一番長い日 投稿者 Rui_555
『政局がらみ』で『閏秒』のストーリーを作れなかったあたり
ストーリーテラーとしては敗北さ。
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