余命1年日記 -19- 第二の見解、TIPS (9月第5週 2016 09 29)
セカンドオピニオンに行ってきた。
僕らがガキの頃、
町には「怖い先生」という名の医者が
たくさんいた。
患者を怒鳴る。
「今日は?」
「最近この子の具合が悪いんです」
「最近っていうことは、
昨日か?5日前か?いつからだっ!」
ってな具合で、患者である子供も
若いお母さんも、びくびくしながら
医者に通ったもんである。
だから昔は「別の医者の意見も聞きたい」
なんて事を患者が言い出そうものなら、
たちまちへそを曲げる医者がたくさんいた。
今でこそ、セカンドオピニオンの診察に必要な
診察記録を、塩を撒きながら投げ捨てるように
渡してくる医者はいないだろうが
まだ「セカンドオピニオン」という単語だけで
年配の医師の中には明らかに
「この先生怒ってるな」という人がいる。
しかし一般的には、
医者の意識も変わってきたのだろう。
もちろん、F先生は気持ちよく私を
セカンドオピニオンに送り出してくれた。
患者の意識は医者以上に変わったと思う。
「そういう機会があるなら、受けとくか」と
「ついで」みたいな顔をして受ける。
実際には、結構なお値段がするので、
自分のことだけだと躊躇するが
子供や嫁、親のため、ということになると、
頑張って用意してしまうので、
結構ハートも財布も熱く燃える金額になる。
治療している疾患や治療の理解に際しての
主治医とは違う立場の医者の意見が
「セカンドオピニオン」ということで
いいのかな?
これを求めに、別の病院にいってきた。
8月26日のことなので、だいぶ
空いてしまったが、自分のなかでも
咀嚼できていない部分があるので、
頭を整理しながら書かせてもらいます。
まず、以前(余命日記13-どう死ぬのか-)にも
書いたが私が現在おかれている状況は、
1.肝硬変であること。
難治性腹水でもあること。
2.肝移植ができない以上、肝硬変の根治治療は
できないこと。
3.そのため、いま出来る治療の眼目となって
いるのが腹水を溜めない、ということ。
これによって痛みやだるさを除去して
QOLをマシにしていく。
4.具体的には利尿剤や食事療法と穿刺など、
腹水を溜めない、あるいは減らしていく
方法を現在、組み合わせながら行っている。
5.また、別の発想の処置としてTIPSがある。
TIPS については、
6.TIPS とは、門脈から肝臓の外の静脈まで
肝臓を経由しないルートを建設すること。
これによって門脈から漏れ出てくる腹水を
抑制する効果を期待。
7.TIPS によって門脈の血液が鎖骨下の静脈に
流れるようになれば、むりやり食道の細い
静脈などをこじ開けるような血流が減って
静脈瘤破裂の危険が減る効果も期待。
といった状況。
セカンドオピニオンを求めるにしても、
まずはこのTIPS について、聞くことに
なるだろう。
なにしろ、何をするのか、効果は?危険は?
なにもわからないのだ。
そこでTIPSとは、いったいなにかについて、
8月16日、県立兵庫医大のH先生という人に
話を聞いてきた。
なお、TIPS 手術は非常に特殊なため、
実施できる病院は各県各1箇所。
兵庫県では県立兵庫医大付属病院だけである。
たから、以下TIPS に関する記述は、この時
初めて聞いたもの。
「セカンド」オピニオンでもなんでもない。
すべて「ファースト」である。
ちゃんとしたセカンドオピニオンは、ここでの
話のあと、別の病院で聞いた。
まず、TIPS 手術の具体的な内容。
・術前日入院。
トラブルがなければ入院期間は1週間。
・通常、開腹手術は考えない。
・全身麻酔か、それに近い状態になる。
・費用は500,000~700,000円。自由診療。
・手順。
1)股間より、大腿静脈にカテーテルを挿入。
2)肝静脈を造影撮影。以下TIPS 手術。
3)頸静脈に穿刺。肝内まで達して、肝静脈
から、門脈までルートを確保する。
4)ルートを拡張し、金属の筒(ステント)を
挿入する。
5)門脈から静脈へのルートが完成し、
肝臓をバイパスしていることを確認。
6)門脈圧がさがったことを確認する。
なんて痛そうな手術だろう。
この術式についての評価は、
以下のようなことになっているそうだ。
期待される効果は、
何よりも腹水の減少とQOLの回復、向上。
穿刺生活を卒業できるかも知れない。
しかし全員に有効な訳ではない。
施術を受けた人のうち有効な比率は50%。
もっとも、サンプル数が少なすぎるために
50%という数字にはあまり意味はなくて、
50%から90%までたくさん異説がある。
異説おおすぎ。
そもそも、こんな痛そうな手術なのに
「有効率50%」ってのも低すぎるだろう。
対して、懸念される副作用としては、
静脈血が増えて、心臓の負担が増える、
ということがある。
「静脈の血流が増える」ということに
す関しては、TIPS を受ければ全員がそうなる。
そして、ここから先は人によるが
血流が増えると浮腫んで、からだが更に膨れて
息苦しくなる。
肺水腫の危険も増える。これも息苦しい。
痛い目に遭うのに散々な未来予想ばかりだ。
ところがこれよりも危険な問題があって、
TIPS を受けると呆ける、と言われた。
病名としては「肝性脳症」というそうだ。
症状についてH先生は、
しきりに「見当識障害」といっていたが、
時間や空間の認識ができなくなる、
ということなので、老人が呆けて
「裕美子さん、晩ごはんはまだかのう」
「おじいちゃん、もう朝よ」
なんて言うのと同じことらしい。
「呆け」に至るメカニズムはどういうことか、
というと、門脈は消化管から集まってきた
栄養分をたっぷりと含んだ血液を運んでくる。
栄養分だけでなく、薬を服めばその成分、
酒を飲めばアルコールが含まれている。
TIPS をやって、肝臓をバイパスするルートを
建設すればこうした血液が、肝臓において
濾過、解毒、余分な養分の分離 蓄積といった
ことをされることなく、
静脈に流れ込んで、全身に循環する。
栄養分たっぷりの血液は、
すぐにアンモニアまみれになってしまう。
で、血中アンモニア濃度の高い、
ションベン臭い血液が脳髄を浸していると
ボケてしまうんだと。
こまったね。
妙に納得させられるから怖い。
更に、恐ろしいことにこの「脳症」の
出現確率はTIPS を受けた人の30%から40%
にもなるのだという。
失敗の確率3、40%というのは、一体なんだ?
3%、4%でも躊躇する数字なのに・・・
いやいや、少々呆けてもTIPS によって、
バイパスが完成して、腹水の生成が
少なくなれば手術としては成功だ、
などと強弁する医者がいるかもしれない。
しかし、
腹水が減っても呆けてしまうんだとしたら、
そんなものが、成功なんかであるものか。
そうは言っても、これでは確かに、
TIPS をやるかどうかの 判断に迷う。
さて、そういったことまでを頭に入れて、
明けて8月26日、私はセカンドオピニオンを
受けるべく大倉山の神戸大付属病院に行った。
耳の遠い父も一緒である。
神戸大のセカンドオピニオンの場合
完全予約制で料金は、30分毎に16,200円。
高え。
「セカンドオピニオン外来」と、診療案内に
書いてあるから来たが、「外科」とか「内科」
のように「セカンドオピニオン科」といった
「診療科」があるわけではない。
従って私のような新患が、外来の申し込みを
すると、対応可能な放射線科医や内科医を、
その都度、見繕って宛がってくれるらしい。
従って「セカンドオピニオンの達人」の
ようなひとは存在しない。
「説明が上手な医者」というだけなら、
たくさんいそうだが「セカンドオピニオン」を
同じ病院で、何度も受ける患者は
いないからである。
「近所のAさんに聞いたんだけど、
ここの○○先生ってのがいいんだって。
だから、うちのエンジェルちゃんの
セカンドなんとかってのは、○○先生に
お願いしたいのよっ。」と、
患者が医者を逆指名することもできない。
セカンドオピニオンにおける医者と患者は、
知識のみが介在する非常に淡白な関係にある。
実は私も、ここを勘違いしていた。
ちょっと当日を振り返りながら考えて見よう。
予約時間の30分ほど前について、指示された
場所に座る。呼ばれたのは予約時刻を1時間
ほど過ぎた頃だった。
事前に「この病院は待たされる」と
聞いていたから、その事には驚かなかったが
待ち合いコーナーが
がらがらなのが気になった。
「予約の患者しかいないのに、
これだけ待たされる。」つまり
「みんな30分を越えて相談している」
私のところで1時間遅れだから、わたしの前か
前の前の人が、1時間、あるいは1時間半
話していたことになる。
1時間半ならそれだけて50,000円だ。
ひえー。
案内されて診察室の椅子に座ると30代くらい
にしか見えない、若い先生が前に座った。
Mと名乗ったその先生は、F先生からの
診察や検査の結果に目を通したことを告げ
それから、恐ろしく汚い字でメモを書きながら
いろいろと説明してくれた。
腹水のこと、食事や利尿剤、穿刺などその
対処法。TIPS やデンバーシャントなど、
別の処置法。さらに肝移植について、その
可能性は非常に低いこと。
そして静脈瘤破裂や感染症、腎機能低下など、
この腹水に付随する様々な疾病について
説明してくれた。
一度は聞いたことがある話ばかりだったが
まとめて聞かせてくれたのは、有り難かった。
「若年の近親者が臓器提供者にならない限り
移植は不可で根治治療も不可能です」って
そんな人いないから、できないのは
百も承知なんだけど、あらためて
声に出して欲しくない日本語で
大きく言われてしまうと堪えるね。
「TIPS はやった方がいいんでしょうか?」と
声を掛けたのは、うちの親父。
M先生は、
「いままで通り投薬と食事療法を行いながら
様子を見て穿刺する、ということを続けても
いいし、TIPS をしてもいいと思います。
治療法がふたつあったら、それぞれのリスクと
ベネフィットをどう評価するかは患者さんが
決めること。体力的な適応の問題もあるし、
決断の時期が大事ですよ」と。
びっくりするくらい、まともな意見である。
そして私がとるべき行動について
びっくりするくらい、なにも言っていない。
記憶を整理しながら書いているので、
この通りの台詞ではなかったと思うが
「患者である私の行動に影響してはいけない。
ここで自分の意見を言うのは控えたい」と
いうことは、繰り返し言っていた。
「あなたがいま受けている治療は間違いだ。
私が薦めるサガリスクというキノコを
毎日煎じて飲みなさい。」という詐欺師が
世の中にごろごろしているご時世なのだから
立場を利用して、
自説をひとに薦めてはいけない。
先生が言っていることは、
いやになるくらいに正論なのだが、
ここでうちの父親が声をあげた。
「先生のお子さんが同じ病気になったら
どちらをすすめますか?」と
嫌なじいさんだなあ。
この馬鹿、何を聞くんだ?と驚いていると、
さすがに先生は苦笑いしながら、
「ご覧のように僕は保守的ですから、
TIPSのように危険の高い方法は
避けると思います」と正直に答えてくれた。
親父は不本意だったらしいがそのまま黙った。
その日は、それで帰った。
静脈瘤破裂、肺水腫、腎不全など合併症の話を
もう少し聞けばよかった、と後になって
思ったが、30分などとうに過ぎていたし、
何より毒気を抜かれた。
大倉山から下山手通を通って三宮に下りる
辺りは10年くらい前のろくでもない思い出が
粗大ごみのようにあちこちに転がっているので
苦々しくタクシーの窓から眺めて帰った。
結局その日のセカンドオピニオンへの対応は
こうなった。
あらためて、F先生に報告して相談した上で、
これまで通り通院しながら投薬と穿刺を
行う。食事は減塩食を手配する。
そうして気が向いたら、
体力があるうちにTIPSを再度考えよう、と
いままで、百万の言葉を尽くしたあげくに
なんて生ぬるい結論なんだ、という
ことになっていまに至っている。
「呆ける危険40%」という、TIPS に、
私もやっぱり踏み切れなかったからでもある。
ところが、前回の退院からすぐに再入院して
しまって、病気に関しての条件が変わった。
再退院が迫ってきて、これを期に親父がまた
セカンドオピニオンを
考えてくれているらしい。今度はサードか。
気持ちはありがたいが
お金がもったいないから、
断ろうかと思っているが、あのじいさんが
自説を簡単に引っ込める筈はないので
頭が痛い。
こんなことでも、セカンドオピニオン
というのはめんどくさい。
あーあ、どーしよ。
残り302日。
どーするっ。
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