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2017年8月26日 (土)

余命1年日記 -88- 大浴場      2017年8月第4週(2017.8. 25)

最近の記録

 

8月22日   血液検査

   24日    F先生診察

   25日      (いまここ)

 

8畳ほどの浅くてぬるい湯の中でのびのびと

足を伸ばす。

大浴場、という名前だが5人も入ると一杯に

なるこの風呂はいつも空いている。

べつに風呂のために階高を上げたりしないので

病室と変わらないスラブの下に、バスリブの

天井が張ってあって立って歩くと天井は低い。

それでも浴槽の水面に顔をつけるようにして

見上げると、強い傾斜の天井の

てっぺんにある、換気窓から

疲れたような午後の陽が差してくる。

地下2階なのに。

 

退院が延びた。

22日に血液検査をした。

腹水はなくなった訳ではないが大分改善した。

利尿剤をたくさん服んでいたので心配していた

腎機能はそんなに悪くなかった。

もちろん、良くもなかった。

肝臓はわずかながら改善。

しかし14日の検査で13点だった、

Child - Pugh スコアは10点に改善。

こりゃあ今週中に退院できるかな、と思った。

しかし結果を知らせてくれたあと、一度医局に

帰ったF先生が渋い顔で戻ってきて、

『natsu さん,来週一杯退院を伸ばしましょう』

 

なに?

 

『今回はいつにもより回復が遅いし心配です』

『肝臓が改善した、Child - Pugh スコアが10点

になったって言ってもまだCランクですから』

 

むう。

そんな訳で、さらにまだ入院しています。

 

しかし以前も書いたが、私の今の状態では

積極的な治療はできない。

薬を服んで、食事を摂って、

あとは寝てるだけである。

 

ひま。

 

F先生もさすがに気の毒に思ったか、

『自由に外出出来るようにしておきますよ』

という。

無条件の外泊許可である。

もう『入院』じゃねえな。

それに『・・・しておきますよ』とはなんだ?

 

そうだよ。あんた半月遅れの夏休みとかで

今これを書いている25日から

旅行に行っちゃうじゃん。

『東京で千葉ロッテの試合を見る』んだって。

やっぱりこの人の事がよくわからない。

 

 

 

 

 

そんなわけで、まだ入院しています。

生活に変化をつけるために、

毎日風呂に入るようにしています。

いまいる病室が午前中に限って陽が差し込んで

空調の効き目がないからでもある。

暑い。

 

やっと冒頭の話に戻ってきた。

 

ところがこの風呂に関して不思議なことがある

K病院には、やたらと小さな風呂があるのだ。

 

部屋に個別に風呂があってたくさんある、と

いうのではない。

規模が小さな共用の風呂が、種類も数も

たくさんあるのだ。

たとえば自力で風呂に入れない人のために、

座位のまま機械がお湯に浸けたり、

仰向けのままお湯に浸けたりしたうえで、

看護師が介助して入浴させる介助浴室がある。

その一方、銭湯と変わらないようなごく普通の

風呂もある。さらに

浴槽がなく、シャワーだけの風呂がある。

 

そしてこれらが実に無計画に、取って付けた

ように建物のあちこちに突っこんである。

たとえば本館2階の介助浴室は、地域医療室や

栄養指導室や研修医詰所などが並ぶエリアに

唐突に一床分だけある。

 

事務室ばかり並んでいるエリアに後付けで

風呂を作っている訳で、恐るべき無駄な手間が

かかっている。

つまり、その部屋のためだけに

給水、給湯、換気、排煙の設備を別に作り、

床と壁にアスファルト防水をして

壁のタイルと天井のバスリブを新たに貼り、

そうして機械浴の装置をいれる。

更にストレッチャーが入れるように

従来の木製建具を撤去したうえで

壁のコンクリートをはつって開口を拡げて、

引き戸のエンジンドアにするために、扉の枠も

取り替える。

そうしてその他にも備品をつけてやっとできる

というくらいの手間がかかる。

 

そうやって作った風呂の隣では、研修医の

皆さんが4人くらい、大きな身体を丸めて

パソコンと睨めっこしているのだ。

 

 

無茶な場所に風呂がある、というのは

今日、私が入った大浴場も同じ。

『地下2階なのに陽が差してくる』というのは

この建物が無茶苦茶な斜面に建っているために

階数が実態とかけ離れている。

ということもあるが、

大浴場がある『東館地下2階』というのが、

本来風呂など配置するべき場所では

ないということもある。

このフロアはCT室とかMRIとかがあり、

周辺にはそのための機械室がある。

大浴場の隣は電気室だったりするので、

おおこわい。

ここも後付けっぽい気がするが、

いくら5人しか入れないとはいえ、ボイラーや

お湯の循環、濾過の設備を考えたら大浴場を

あとから作るのは簡単なことではない。

そして、いずれにしても場違いではある。

 

 

 

結局、K病院の380床のベッドに対して、

浴室で身体を洗うのに使うカランの数が

少なすぎるのだ。

 

病院の病床には二種類ある。

ひとつが、私が今いる『一般病床』。

もうひとつが『療養病床』。

K病院の場合、トータル380床のうち一般病床

が7割くらいである。

 

医療費の増大に頭を抱えた国が、

『患者を二種類に分けよう』と考えた。

つまり、治りそうなやつは、スタッフなどを

分厚く配分してとっとと治して追い出そうと。

これが『一般病床』。

対して、広い部屋でゆっくりやりましょうか

というのが『療養病床』。

こうすることで医療資源を効率的に集中できる

 

医療や看護については門外漢だから触れないが

建築についてもそれぞれ必要な施設が決まって

いる。

特に療養病棟はうるさく、

一人当たりの病室面積や

機能訓練室や食堂の面積、廊下の幅員などが

結構細かく決まっている。

廊下の幅員2.7mなんてのはストレッチャーが

すれ違うためには広い方がいいんだろうけど

広すぎると思う。

こんだけ広いと廊下の排煙窓を確保するのが

大変なんだよ。排煙の計算なんて一年生に

やらせたらいいじゃねえか。

 

ふう

 

風呂については『必要なだけ確保せよ』とある

だけで、大浴場にしろとも個別に設けよとも

書いていないが、いまのK病院の場合、

一般病棟は、各部屋共通の風呂。

(でかい個室にもシャワーユニットはなかった)

療養病棟は病室にシャワーユニットをおいて

対応することにして病棟に大浴場を作ったりは

していないようである

 

その一方、治療のために

全身が管に繋がれていたり、

ギプスで固められていたり、

穿刺や手術など外傷を伴う治療が

行われているやつがごろごろいる。

当然、風呂に入れない。

そもそも入院直後はそんな元気はない。

 

 

だから『それなら、この病院のカランの数の

適正値は?』と聞かれてもわからないのだが、

足りないから82年間の間で足してきたんだろう

K病院のいいところは古いことだが、

悪いところも古いことで、風呂などの設備は

決定的に古い。

もちろん何度も改修の手が入っているらしいが

それももう古い。 そんなことを ここだけは

強力にクーラーが効いている脱衣室に裸のまま

座って、皮膚科に貰った薬をゆっくりと丁寧に

塗り込みながら考える。

『地下2階の太陽』が、

物憂げに脱衣室にも差し込んでくる。

 

平和だ。

 

30年くらい前にいた患者も、

おなじように風呂上がりの時間を

過ごしていただろうか。

 

 

 

実をいうとK病院は現在、大規模な改築,増築の

工事が行われており、今回入院している本館は

除却したうえで建て替えをすることに

なっている。

大浴場のある東館は、建物としては生き残るが

管理棟になって患者が立ち入れなくなるから

風呂はなくなってしまうだろう。

新しい病院に大浴場ができるかどうかは

知らない。

多分できないだろう。

 

昭和9年竣工。82年の歴史をもつこの病院を

建て替えるという話をF先生から聞いたときは

真底驚いた。

いま現地では、再来年オープン予定の

本館Ⅰ期の増築部分を建てるための

タワークレーンがすでに立ち上がっている。

 

F先生とは、回診の後の雑談などで、

この建て替えの話が出るようになった。

F先生も最初は

『この建物を無くしちゃいかんですよね』と

言ってたのに、建て替え工事の内容が、

患者にも漠然とわかる段階になり、

今は病棟だけの東館が『管理棟』ということに

なるのだと教えてあげると、いまはプレハブの

小屋の中にある医局が建物の中に入れて

暑くて寒くてうるさいプレハブ生活から

脱出できるようになる、と喜んでやがる。

 

2020年のグランドオープンを見るのも、

2018年のⅠ期オープンを見るのさえ怪しいから

要望めいたことを言うのは、二重三重に意味は

ないが、やっぱり湯に入って、あるいは

湯上がりに呆然とできる

こういったスペースは欲しい。

 

いまは、病院の写真を撮ったり、敷地の中を

歩いたりして、

本館の『最期から2番目くらいの夏』を

記録しております。

 

建物の中にかっこいいパーツが

たくさんあるんだよな。

 

欲しい。

 

たとえば『内科処置室』と旧字体で書いてある

ガラスの銘版。

 

これはF先生に言って、T中工務店の監督に

取り置いて貰えるようにしよう。

 

 

 

はあ、疲れた。

 

血液検査があると緊張し、最近の結果は

入院しても、まあ絶望的な数値だ。

 

 

最近はよく寝る。

あと、ベッドが窓際で午前中は日が射すので

めちゃめちゃ暑い。

 

だから風呂に入って涼む。

新しい建物に、心が動かなくなったら

なんかもう、ずいぶん負けだ。

 

 

 

 

 

 

残り- 28

  

 

 

明日は、外出。

 

 

 

 

 

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